これでよかったのですか。
かれがたしかに自分の口から発したはずの声は、思ってもみないほどかすれて小さかった。
窓際にまるで彫像のようにたたずむ高齢の女性は、なんの反応もかえさずにただ目を閉じている。
真昼だというのに薄暗い室内に、換気のためにかすかに開けた窓から湿気を含んだ風が入ってくる。日頃体調には無頓着な彼女ですら、こんな日には節々の痛みに顔をしかめる。老化は確実に進行している。この年齢の人物としては、驚異的な体力を維持しているが。
もっとも、十数年前にかれが初めて会ったときと、そう変わったようには見えなかった。そういえば、かれは祖母が人間ではないのではないかと、疑ったこともあったのだ。
かれは問いをかけた相手が誰なのか、一瞬見失った。
あまりの静寂に、誰にむかって尋ねたのか、そもそも本当に訊ねたのかどうかもわからなくなったのだ。
もしかすると問いは口から外へは出てゆかず、自分の中に戻っていっただけなのかもしれない。
これで、よかったのだろうか。
安楽椅子に体をあずけ、膝かけのうえで痩せて骨張った手を静かに組んだ老女は、戸口の存在を意にかけず、かわいた薪の燃える暖炉の前でくつろいでいるように見えた。
だが、かつてここで申し渡したことが実行されるところを、長年修練をつみかさねてきた注意深さをもって、見届けようとしていることはわかっていた。
一の巫女が物事を知ろうとするのに、目をひらく必要はない。
かれはゆっくりと背を向けた。
神殿の裏口に、ある人物がやってきたことを、かれの超常的な感覚が教えていた。
すべてがこれで終わりをつげる。
かれのなかに生きるためのちからと呼べるものはもうほとんどなかった。
長く遠ざかっていた故郷にもどってきてからの出来事に、ようやく決着がつくのだ。
そしてかれの人生にも。