館は森に朽ち、森に還った。
みたりの魔物の骸は夜風にさらわれ、いずこへともなく消え、月影のした、かつての城の礎かとおぼしき石が残った。
それは幾百年の年月を経て、風雪に耐えぬきしものの重みをもち、見るものにせまった。
呪われた王国の最後まで残った呪いは、ようやくとけた。
異界との境界も、ほんのすこしではあるものの、後退したように見える。
騎士は館をあとに、森の奥へとむかった。みちびかれるままに、なにをかわからぬものをもとめて。
その顔はきのうと変わらぬように見えたが、胸のうちにやどる心には、またひとつ、ふかき傷を負っていた。
ながれでる血液は、あわれなる王女たちのかわきの苦しみを癒せるであろうか。
すでに必要なきものであるにはちがいないにしても。〈了〉