あれからどれくらいたっているのだろう。
シアはため息をついて、うつむいたときに胸にかかっている母のペンダントを見つけ、もういちどため息をついた。
とにかくエスカを探そうと、シアはよたよたとではあるが歩きはじめた。
じぶんが生きてここに流れついたのだから、エスカが近くにいないとはかぎらない。ペンダントがなくならなかったのだから、可能性は高いはず。
おそろしく楽天的な考えだと、当人が聞いたら怒ったろうが、シアの考えの悲観的な面はすべて肉体的な方向にむかっていた。
からだじゅうがひりひりとするのは、このところずっと耐えてきたことだった。が、海水につかってごわごわになった服が、からだをうごかすたびに皮膚をこする痛みには格別のものがあった。
かててくわえて、空腹だった。喉もかわいていた。食料袋は、もちろん流されてしまっていたし、そうでなくても、残りはわずかしかなかったから、節約のためにこのところ、ろくに食べていなかった。
生き残った安堵が、肉体の苦痛にたいするうらめしさにとってかわるのに、それほど長い時間はかからなかった。
シアはのろのろと砂の傾斜をのぼり、小高い丘のうえから砂浜を見おろした。
海が見えた。
ひろびろとした青い海。そして、砂浜。
シアの見なれている島のものよりひとまわり規模の大きい、白い砂浜。太陽の光をさんさんと浴びて、まばゆいような光景だ。
疲れと空腹をかかえたシアには、すこし刺激のきつい美しさだった。それに、エスカの姿は見えない。
くずれるように砂地にへたりこんで、シアはよせてはかえす波とその白い波がしらをながめた。
「どこ、行ったんだよ」
急に心ぼそさが自覚され、現実の意味が、ようやくあたまの中はさまざまな結論を導きだしはじめた。
シアはそれを無理にふりはらって、いきおいよく立ちあがろうとした。実際はかろうじて立ちあがることに成功した、という感じだったのだが。
ともかく、シアは海岸線にそって歩きはじめた。
しばらくのあいだはなにも起こらなかった。
海鳥がときおり、めずらしげによってきて、あたまのそばをかすめ飛んだりしたが、そのほかにうごいているものといえば、波とシア自身の影、彼女が踏みくずしている砂地、かすかな風にゆれる背の低い草、それだけだった。
砂とともに太陽に熱せられながら、ぼんやりとしたあたまが思うことは、漠然とした不安。
シアはできるかぎりの注意ぶかさを心がけて、砂浜を調べていった。
エスカを見つけようという意志が、いまの彼女そのものだった。かれをうしなって、そうしたらどうなるのか、考えることさえしなかった。
魔法使いの少年が、島よりほかにはなにも知らないシアを、ここまで導いたのだ。かれがいなくては、シアにとってはなにもはじまらない。はじめようがない。
砂地になにかをひきずったようなあとを見つけたのは、だいぶ歩きつづけたあとで、喉の渇きと日焼けとで、からだじゅうが燃えているように感じられてきたところだった。
シアは、幻を現実にしようとして、数回まばたきをした。
ちいさな涸れ川のようなけずられた砂のあとは、波打ちぎわからのびてきて目の前をよこぎり、草の多くなるほうへとつづいている。しゃがんで砂の上につけられた筋を見つめたあとで、シアはその上に乗っかり、幅をたしかめた。
そうかもしれない。そうじゃないかも、しれない。
迷ったのはほんのわずかなあいだだけだった。
シアは砂地につけられたあとをたどることにして、歩きはじめた。