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 ゴンダリオと呪術師が避難民たちを連れていったのは、予想どおり、ローダ領主の居城だった。
 宵闇にまぎれて尾行をつづけていたトルードとアンガスは、一行が通用門から城内に姿を消してしまうと、さて、と、思案をめぐらせた。
 ただ城の中に入るのなら、てだてはいくらもある。
 トルードには歌うたいの身分があったし、いままでの道中、それが大いに役立っていた。
 さいわいにも明日は祭りだ。城の中にも、浮かれ気分を楽しむ雰囲気が流れこんでいるだろう。騒ぎにまぎれて、城内を探ることは不可能ではないはずだ。
「きみの考えていることをあてて見せようか」
 吟遊詩人は微笑みで相棒の思考を中断させた。
「エイデール殿の前にとつぜんあらわれて、ドゥーリスの鉄槌を打ち下ろしたいと思っているだろう。ちがうかい」
 アンガスはそのとおりではないにしろ、かなり近いことを考えていたので、むっつりして吟遊詩人を見かえした。
「思っただけだ」
「理性をはたらかせてくれることを願うよ。めだたぬことがぼくたちの第一の使命なんだからね」
「フォデルスの名を出したら」
「まず、信用しないね」
「また、おれに吟遊詩人のまねごとをさせるのか」
 苦しそうにたずねる若い戦士に、トルードはおだやかな笑顔を返した。
「歌えとは言わないから、だいじょうぶ。それにきみがなるのは歌びとじゃない、弟子だからね。そこのところを取り違えないように」
「弟子だろうが師匠だろうが、不自然にかわりはないさ。甲冑をまとった歌びとなんて」
「いにしえの英雄には、有名な歌びともいたんだよ、アンガス。セインのグウィルフレインなどは、きみも知ってるだろう」
 アンガスはさらに苦々しげになった。
「グウィルフレインは、歌びとに生まれついた英雄だ。でも、おれはどちらでもないからな」


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