天空の翼 Chapter 1 [page 2] prevnext


2 翼の運ぶもの


 そのしらせは、一羽の翼あるものとともにエリディルに到達した。
 それは稜線が朱色に染まり、しだいに青みをおびつつ夕闇の中に溶けこみはじめようかという時刻。
 東からの旅路の最後に、鈍色の鳩は、力づよく羽ばたきながら山腹に埋もれかけた石積みを飛び越えた。高々と舞いあがったかとおもうと、今度は霊峰より吹き下ろされる寒風にのって、上空から地上へとすべるように降りはじめる。
 ひろげた翼の行く手には、背の高い石造りの荘厳な建物が待ちうけていた。すでに山陰に沈み、山頂よりも一足はやく宵を迎えたその場所に、鳩はともしびのように煌々とひかり輝く格好の目標物をみとめていた。
 周辺には、外界からの脅威を寄せつけない、つよい守護の力がはたらいているのがわかる。
 鳩は、放たれたときからその輝くものをめざし、懸命に飛びつづけてきたのだった。
 高度を落とし、いくつかの大きな黒い影をぬって進んだ鳩は、わずかな空間にしつらえられた止まり木に羽根をひろげておりたった。
 ここはすでに結界の中だ。近づきすぎたためなのか、もう輝くものを捉えることはできなくなっていたものの、安全な場所にたどりついたことはわかっている。
 鳩は、空をうつして藍色にそまった水飲み場にたむろする野育ちの鳥には目もくれず、訓練されたものの確かさで専用の小さな入り口をおしひらいた。その先にあるのは、鳩のためのあたたかなねぐらである。
 しばらくして、巡回におとずれた鳩舎係の神官が、外から入りこんだものを分けるための区画で寒さに羽根をふくらませているなじみのない一羽を発見した。
 そっと手をのばして抱きかかえると、鳩はおとなしくされるままになった。羽根の色具合からして、エリディルで育てられ、訓練ののちに各地の神殿に連れてゆかれたものの中の一羽に違いない。
 見れば、脚には書簡の入ったちいさな筒をくくりつけられている。その筒には、鳩舎をそなえたものとしてはもっとも近くに位置するが、山をひとつ迂回するため地上の旅程では一週間はかかる、ブレントル神殿から放たれたことを示す赤い翼の印が刻まれていた。
 伝書鳩の久方ぶりの到来に神官は興奮した。しかし、意気込みとは裏腹に、かれが係となってから初めて受け取った書簡はたいそう簡素なものだった。
 もともと、それほど大きくない鳥に託しても無理のないように、鳩による伝書には著しい制限がくわえられている。必要最小限の言葉で簡潔に。それが鳩をつかって書簡を送る際の鉄則である。
 だからといって、その内容がかるいわけではないことは言うまでもない。
 近年では、大神官の代替わりの際に、アーダナ大神殿より各地の神殿へと鳩が飛ばされた。そのとき紙片にしるされた言葉は、あらたに大神官となるものの名前のみ。たったひとりの人物の名をつたえるために、何百羽もの鳩が放たれたのだ。快晴だったアーダナの空は飛びたつ鳥の影に一瞬にして覆いつくされた。そのありさまはまるで日食のようだったと語り伝えられている。
 ところで、今回の伝言は、どれほど重要なものだったのだろうか。
 係の神官は、盗み見た書簡の内容に興奮と同時にかすかな当惑を覚えていた。
 しらせの意味するところを知るものは、まだエリディルにはひとりもいなかった。


 フィアナは、その朝もはやくから目を覚ました。
 宝玉の巫女となって十余年。朝の祈祷を主なつとめとさだめて以来、彼女の朝は他の巫女よりも数刻早くはじめられる。早起きは得意とはいえなかったが、長年つづけていればそれなりにコツがつかめてくるものだ。遠くから聞こえる鳥の声を耳にしながら、徐々に意識を現実にあわせてゆく。身体のすみずみまでがすっきりと目覚めるまでには幾分時間がかかり、それは儀式の終わりごろにやってくるのが普通だったが、それもふくめて、フィアナにとっての一日は、つねに平穏かつゆるやかに、規則正しくはじまるものだった。
 ところがこの日、目覚めは唐突にやってきた。
 心臓がとまるような衝撃とともに、ふいに意識が鮮明になったのだ。
 中断されたそれが夢で、つい先ほどまで自分をつつんでいたあたたかなものは眠りだったのだと気がつくまでに、フィアナは呆然としたままの時をしばらく過ごした。
 なにかを奪われたような空虚な感覚が、身を侵していく。
 窓を鎧戸までしっかりと閉じたままの寝室は、まだ暗い。いまだ夜の刻に沈んでいるうつろな部屋の中を褥に横たわったままでぼんやりと感じとりながら、フィアナはかすかに息を吐きだした。
 夢の気配は、目覚めると同時に霧が晴れるかのようにかき消えていった。どんな夢だったのだろう。なにも思い出せない。なのに、まだ動悸がつづいている。まるで、心臓の音が部屋全体に響きわたっているのではないかと思うほどだった。
 フィアナは、夜具のぬくもりのなかで、手足がきちんと存在していることを――からだが消えてなくなってしまっているわけではないことを確かめようとした。
 掌に触れる皮膚の感覚が、自分のものではないかのように遠い。いつもはたしかな宝玉の金鎖の感触も、金鎖につらなる台座とその空のくぼみの具合も、そのことを感じる意識さえも、いまだ夜と朝の狭間にあるかのように靄がかかったままだった。
 この感覚はなにかに似ていると、フィアナはぼんやりと思った。
 夢はとうに彼方へと消え去ってしまったのに、いつまでも残滓をまといつづけているような感覚。
 わずかにたぐりよせた残像のなかで、しろくあわいものが視界をよぎっている。
 あれは雪だったのだろうか。そう思うそばから、違和感が生まれた。いや、雪ではなくて、もっとつめたくはないもの。もっとひらめき舞うように落ちてゆくもの。
 胸の奥がしくしくとしはじめた。痛いというほどではないが、無視できるほど淡くもない違和感。
 フィアナは残った感触を反芻しながらしばらく考え込んでいたが、寒さ除けの綴れ織りと分厚い石壁を隔てた屋外から聞こえてくる、まるみをおびた鳩の声に思考を中断された。
 そういえば、一昨日の夕方、伝書鳩が戻ってきたという話を侍女から聞いた。どうやら神殿じゅうの噂になっているらしい。エリディルに鳩はごまんといるものの、外部から鳩のしらせが届くことは滅多にないからだ。
 十四年もここで暮らしているフィアナにしても、鳩のもたらしたしらせについての記憶はかぞえるほどしかない。
 もっとも鮮明に覚えているのは大神官の代替わりを告げたときのものだが、そのほかというと、かつての一の巫女の逝去をつたえる哀しい報せがそうだったのかと浮かぶくらいだ。
 鳩は、つねに逃れようのない運命を告げるものだった。このうえなく重大でのっぴきならない出来事をつたえるために大切に育てられている。
 そう思うと、なんとはなしに不安な気持ちになってくる。
 原因はおそらく、昨秋実家から受けとった書簡にある。
 久方ぶりに届けられた東からの便りには、父親の流麗というよりは几帳面な筆で、大事な用件があるので帰省するようにとうながす文章が、理由は曖昧なまま、連綿とつづられていた。
 いったい、父はなにを考えているのだろう、というのがそれを読んだ最初に感じたことだった。
 大事な用件とやらがなんなのかを知りたい気持ちはもちろんあるが、フィアナは宝玉の巫女なのだ。それはすなわち、神殿と名づけられた聖域に身をおくことを定められた特別な身である、ということを意味している。フィアナは公式にはエリディルから動くことができないのだ――巫女の地位を降りないかぎり。そんなことはわかっていて当然なのに、わざわざこんな書簡を送ってよこすとは。
 フィアナに先駆けて書簡をあらためたのだろう女官長はこの言いぐさを不快そうに鼻であしらい、その場で変な考えは持たないようにと釘を刺した。
 それでも書簡を読む以前と後では、フィアナの世界を見る目は変わらずにはいられなかった。
 西の果てのエリディルにあって、物事はすべからく東より訪れるものだった。
 物心ついたときからエリディルを出たことのないフィアナにとって、東のかたは異国という以上に別の世界に等しい。
 それでも神殿の巫女たちはいつかは地位を降り、外の世界へと赴くことになる。
 たが、自分にそのときは訪れるのだろうか。
 春になったら、迎えに行く、と父親の書簡は告げていた。
 その一言がほんとうに実行されうると、信じることは難しかった。現に、あれからディアネイアからの連絡はないが、それについても意外に思うより、やはりと感じる方がつよかった。フィアナはうすうす気がついている。自分には、ほかの少女のような〈任期切れ〉はやって来ないのかもしれないと。
 けれども。
 東からのしらせは、なんだったのだろう。
 書簡の内容を当然知っているはずの神官長は、ゆうべはなにも告げなかった。もともと神官たちは巫女には多くを語らない。しかし、今回は滅多にない鳩の知らせだ。なにか言葉があってしかるべきだ。もしそれもなければ、女官長をつかまえて、なんとか話を聞き出してみよう。
 それには、まず、起きなければ。
 フィアナは両手を上掛けから出して、うん、と上へと伸ばした。ゆるい袖がめくれ落ちて、ほそい腕があらわになる。とたんに寒気が襲ってきた。
 暖炉の灰はかきおこされて、薪の燃えるにおいもしているが、部屋が暖まるまでにはまだそうとうな時間がかかりそうだ。
 やっぱり、もうすこしこのままでいようか、と思ったそのとき、
「おはようございます、フィアナさま。ごきげんはいかがですか」
 明るい声とともに扉がひらき、侍女が入ってきた。慎ましさなどかけらも持たないはずむような足どりで部屋を横切ったかと思うと、ばたばたと音をさせながら窓の鎧戸を開け放ってゆく。
「おはよう、ミア。ごきげんは、いつもとかわりないわ」
 寝台の中でもごもごとつぶやくフィアナの声は、おそらく侍女にはとどいていまい。
「きょうもいいお天気です。すっきりと晴れて、とっても気持ちがいいですよ。午後からシャンシーラを見にいくのが楽しみですね。もう満開に近いんじゃないかしら。厨房にお弁当を頼んでおきましたから、外でゆっくりとお昼をめしあがれます。そうそう、女官長があとでお話をしにおいでになるそうです。はやく支度をしてしまいましょう」
 そう言いながら、ミアは寝台の帳もさっとひきあけてしまった。
 突然のあかるさに目を射られて、フィアナはまぶしさに両手で顔を覆った。この侍女の唐突な行動には、いつまでたっても慣れることができない。
 フィアナはのそのそと上体を起こした。
 硝子をはめ込まれた格子窓から射しこんできた朝の白い光をうけて、うすい夜着をまとった華奢な身体がうかびあがった。ところどころもつれつつ、うねり流れるやわらかな髪にふちどられた小さな顔が、思い切りしかめられている。
 侍女の差しだす木製の杯を目をとじたまま受けとると、フィアナはそのままひとくち飲み込んだ。
 杯に満たされているのはぬるんだ湯だった。蜂蜜をほんのすこしだけたらしてあり、口にふくむとかすかに甘い香りがする。それは、朝一番にくみあげた井戸水を一度沸騰させた後にゆっくりと冷ましたもので、六の巫女のもっとも尊ばれている資質が声であることに配慮して、わざわざこしらえてきたものだ。まったくミアは、気働きがいいのか悪いのか、よくわからない侍女だ。
 フィアナは寝ているうちに喉にからみついた違和感をとりのぞくために、かるく咳払いをすると、くちびるを閉じたままでかすかなハミングをした。喉のふるえからこもったような濁りが消えるまで、いくどもおなじことをくり返す。
 そのあいだ、まだ重たいまぶたの裏には小さな白い花の影がうかんでいた。シャンシーラの群生している累壁付近の斜面のようすは、神殿からも遠目にならば見ることができる。空へとのびるたくさんの枝にかぞえきれないほどの花をかかえて君臨する春の女王は、間近にするとそれは壮観だろうとおもわれた。
 エリディルの初春をあじわう最後の機会を、フィアナは楽しみにしていた。
 午後からの予定は薬草摘みであって花見物ではないのに、ふたりはすっかりお遊び気分になっていた。弁当に気がつくなんて遠乗りが好きなミアならではだろうが、シャンシーラの木陰でやわらかな花風に吹かれながら食べる昼の食事を思うと、こころがふわふわと浮きたってくる。
 エリディルにとって、シャンシーラの樹は特別な存在だった。寒冷な山肌に深い根を下ろして土に水をたくわえ、濃い色をした太い幹を長い歳月をかけてはぐくみ、春にはつもる雪のような花を、夏は青々とした葉を茂らせ、小粒だがほんのりと甘酸っぱい実をつける。一年をつうじて、シャンシーラはこの土地に深い恵みをもたらしている。
「女官長の話って、なにかしら」
 薬草摘みに関しては、女官長にもひと月ほど前には話を通してあったはずだが、このところ浮かれてあちこちで粗相をしていたことが思い出された。もうすこし、根回しをしておいた方がよかったのだろうか。
「あら、ご存じないんですか。きっとあのことですよ」
 ミアは、巫女の長い髪に無理矢理ブラシをかけながら、訳知り顔で断言した。
 寝ているあいだにすっかりもつれたフィアナの金色の髪は、ブラシのいきおいに押されてふわふわと舞いあがる。
「あのことって、なによ」
 代名詞に入れかえる言葉を思いつかないフィアナは、髪がブラシにひっかかって突っ張るのを我慢しながら尋ねた。
「ほら、おととい、届きましたでしょう。伝書鳩のしらせが」
 すこしどきりとした。
「ゆうべ、神官長さまのお部屋に女官長さまと守護さまがおいでになって、夜通しなにごとか相談なさっていたそうですよ」
 そこでミアは、ふふふと笑った。
「じつは、小耳にはさんだんですけど……」
 くすんだ緑色の瞳をいたずらっぽく輝かせた娘は、秘密めかしてささやくためにフィアナの上にかがみ込んできた。耳に、あたたかな吐息がふれてくすぐったい。
「今度の鳩のしらせの中身はですね、どうやら騎士に関することらしいんです」
「騎士って、ザカルスティンの?」
 ザカルスティンとは、エリディルに隣接する伯爵領である。西方のつねで領土の広さのわりにゆたかとはいえない家柄だったが、神殿直轄のエリディルに少数だが守備兵を派遣してくれている。たしか、その統率者として騎士がひとり赴任していたはずだ。だが、神官長と守護はともかく、ザカルスティンの騎士に女官長がかかわる理由が思いつかない。
「ちがいますって。ザカルスティンに鳩で連絡するようなことなんかありませんたら。すぐ隣なんですから、どんなに緊急でも狼煙で充分事足ります。アーダナですよ」
 隣人に対する言いぐさとしてはあんまりなのではと思いはしたが、最後に飛び出してきた名前にびっくりして、フィアナは空色の瞳をみひらいてふりかえっていた。
「アーダナって……もしかして大神殿の」
 それならば、エリディル神殿における三人の実力者が額をよせあうのもうなずける。
 旧グローズデリア各地に散らばる数えきれぬほどの神殿のすべてを統括し、ひとびとを教えみちびく偉大な大神官のお膝元。もっとも権威ある大神殿の名称は、また、巨大な神殿組織が所有する正規にして唯一の武力集団、神殿騎士団の名称でもある。
「そうですよ。アーダナの聖騎士が、エリディルにやってくるらしいんです」
 ミアの声は興奮気味だった。
「シャンシーラの季節に、なんてぴったりの出来事なんでしょう。聞いておいでですか、アーダナの聖騎士ですよ。巫女さまのいいつたえにありましたよね。“ちいさき花の雪のごとく散りふるもとにて、そのしろき御手をかざし騎士の胸に添いあてた――”」
 なんだか口調が大げさになってきた。ミアは身も蓋もないほどに現実的な一方で、ずいぶんと夢見がちなところがある。それも致し方のないことかもしれない。仕えているあるじよりも大柄でずっと大人びて見えるものの、なんといっても、まだ十五なのだ。
「でも、アーダナの聖騎士が、なにをしに来るのかしら」
「それはもちろん、きまって――」
 そのとき、それまで耳に入らなかった扉を叩く音が、ひときわ大きく部屋に響きわたった。
 あわてたミアが飛び跳ねるようにして出ていくと、扉の向こうには、お世辞にも機嫌がよいとはいえない顔をして五十がらみの女性が立っていた。生きてきた歳月をしのばせるふくよかな身体を地味な臙脂色の女官服につつみこみ、白いもののだいぶん混じった栗色の髪を、まっとうな性格よろしくきっちりとまとめあげている。落ちかかるような後れ毛は、ひとすじたりとも見たあらない。
「いつまで支度にかかっておいでですか。聖堂では皆が待ちくたびれておりますよ」
 いつもならやわらかく通るいくぶん低めの声が、いささか険をおびている。
 硬直したふたりの少女を前にして、モード・シェルダイン女官長はフィアナのいまだまとまっていない髪の毛に眉をひそめた。
「ミア・ハーネス。手にあまるようなら手伝いますよ」
「は、はい……いいえっ。大丈夫です、できます。お言葉はありがたくちょうだいいたします」
「できるだけ、すみやかに仕上げなさい」
「わかりましてございますっ」
 新米侍女の言葉づかいに、女官長はふっくらとした顔を困ったように曇らせる。
「返事はよろしい。手をうごかしなさい」
 緊張しきったミアの手が、髪の毛をすくいとっては編んでゆくのに身をゆだねつつ、フィアナは女官長のようすをうかがった。
 背筋をまっすぐにのばし、はりだした腰の後ろに両腕をまわしてゆたかな胸をはった女官長は、鏡越しの視線にすぐに気づいた。だが、見かえしてきた静かな鳶色の瞳には、予想していたどんな表情もうかがうことはできない。見いだされるのは、しいて名づけるならばさだめられたことが予定通りに進んでいないことに対するちいさな苛立ちだった。機会をうかがうようなそぶりや、切り出すための言葉を吟味しているのかと思わせるような気配は、感じられない。
 話というのはなんだったのだろう。尋ねてみようかとフィアナは何度か思った。鳩のしらせもだが、この時間にわざわざ女官長が訪ねてくること自体が普通ではなかった。理由があるのにちがいないのだ。それも、なにか特別な理由が。
 だが、逡巡しているうちに身支度がすんで、機会を逸することとなった。落ち着きはらった女官長に話しかけるための糸口を見つけるのは容易なことではないと、あらためてフィアナは感じた。おそらく、女官長はいまここで別の話を持ち出すことはないだろう。
 追い立てられるように私室を出ると、薄暗い回廊を三人で押し黙ったまま聖堂へとむかう。沈黙がやぶられたのは聖堂の半分開かれた扉の前で、やぶったのは驚いたことに女官長だった。
 フィアナは呼びとめられたことにしばし反応できず、ゆっくりとふりかえった。
 朝日を背にした女官長は、いつもの微笑みをうかべながらはっきりと告げた。
「あなたにお話があります。薬草摘みのあとでまた時間をつくりましょう。フィアナさま、シャンシーラの花を楽しんでおいでなさい」



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