天空の翼 Chapter 1 [page 3] prevnext


3 光射す中庭


 侍女のミアが言ったとおり、上々の野歩き、いや薬草摘み日和になっていた。空は澄んで青く高く、湿気が少ないのだろう、雲もうすい紗のようなものがかかっているほかは、ほとんどみあたらない。
 春先のまだひややかな大気に太陽の輝きがぬくもりをもたらし、そこに穏やかな風がうまれる。
 風にのって、ちいさな花びらがたわむれるように浮き沈みしながら飛ばされてゆく。光のふりそそぐ陰影にとんだ空間をながされてゆきついたのは、神殿内のあるところだった。
 そこは神殿の心臓部ともいえる祈りの場からは幾分離れた、地味ですこしばかり雑然とした一画だった。まわりをとりかこんでいるのは、おもにここに暮らす人々の日々のいとなみのためにつくられた、やはり石積みの建造物である。荘厳な宗教施設とくらべるとすこしばかり背が低く、かなり庶民的なつくりのいくつかの建物のすきまには、無計画な増改築の副産物として中途半端な広さの空間が残っていた。周囲に陽射しを遮られるため暗く陰気な場所なので、ふだんはおもに通路として利用されており、足を止めるようなものはいない。この場所をそれと心にかけるものもほとんどいないだろう。
 だが、太陽の放つ光の矢が石積みの隙間を通りぬけるようになると、たたずまいは一変する。黒ずんだ古い建物のならぶ隙間にぽっかりとひらけた、中庭というには殺風景にすぎるちいさな空間が、わずかなひとときのあいだだけ、陽光にいろどられて色彩を得るのだった。
 現在、光の時間のただ中にあるそこには、厩から二頭の葦毛の馬がひきだされて、美しい馬具を装着されていた。馬はときおり石畳の上をかくようにしながら足踏みをしているが、その足下では数羽の鳩たちが首を前後にふりつつ無防備に歩きまわっている。
 手綱をもったままで立ちつづけている馬丁は、陽射しが眩しいのか目をほそめ、視線があうと肩をすくめてみせた。この姿勢をとりはじめてからずいぶん経っているのに、馬のあるじはなかなかやって来ない。
 金色の光につつまれたひとりと二頭、そして数羽は、まるで別の世界、時間が永遠にたゆたい、輝きながらとどまりつづけている世界に住まうもののようだった。
 その、光射す中庭を横手からのぞむ薄暗い小部屋のなかで、フィアナは古びて腐りかけている長椅子つきの窓框にもたれてため息をついていた。うすいまぶたがものうげに下がっており、すこし眠たそうだ。
 ゆるく波うつあわい色の髪をふたつに分けてお下げにし、野歩き用に地味な服を身につけて、編みあげの革靴を履いた足をぶらぶらとさせているその姿は、小柄で華奢な体格も相まって、十七の娘というよりもまだ幼い少女のようにしか見えない。
 いまの自分を見ても、これが宝玉の巫女だとはだれも気づかないだろう。フィアナはぼんやりとそんなことを考えていた。来客をいっとき待たせておくための暗く狭苦しい一室で、たったひとりでしょぼくれている貧相な小娘が、かつての偉大な一の巫女の金鎖を受け継いで宝玉を保持し、先頃には十四個めの名前を授けられたなどと、だれが想像するだろう。
 とはいえ、長きにわたって六の巫女と呼ばれつづけている少女について、知らないものなど誰ひとりとしてここには存在しないのだから、そんな仮定は無意味なのだったが。
 フィアナにとっても、巫女ではない自分を想像するのは難しかった。神殿の外の生活をまったく知らないというわけではない。でも、それはふもとの村からやってくる侍女たちの暮らしを垣間見た、という程度のものだったし、正直いって、これまでに巫女以外のものになりたいと思ったこともなかった。もっと自分が巫女に向いていればよかったのにと、幾度思ったことだろう。フィアナにできるのは、せいぜいがいにしえの言葉を読み書きすることで、それは巫女でなくとも、素養のある神官ならば身につけることのかなうたぐいのものでしかない。そのほかに人並み以上にできることといえば歌をうたうことくらいだが、はっきりいってそれは巫女に期待されるつとめのうちには入っていない。
 これほど長くつとめつづけているのに、最下位の六位からひとつも位階をのぼることができなかった。
 フィアナは自嘲気味に考える。
 あけはなった窓から見える光景はまぶしい。そのまぶしさが、なぜか明るいところから自分を隔てるためのもののような気がしてしまう。
 こんな後ろ向きなことを考えている理由はわかっている。今朝の祈祷で失敗をしてしまったからだ。
 寝起きの感じが変だったとはいえ、そのうえに女官長に動揺させられていたとはいえ、することはたったのひとつだけ。
 それなのに、きちんとまっとうすることのできる数少ないつとめを台無しにしてしまったのだ。
 フィアナにとって屈辱に等しい失敗は、平静さを欠いた祈りの場の雰囲気に端を発していた。
 聖堂内の静謐な暗がりの中で思い思いの祈りを捧げるために真剣なはずの神官たちが、今朝は初めから妙に落ちつかず、無言のままにつづくざわめきがいつまでもおさまらなかったのだ。
 フィアナには、そのざわめきすべてが自分へとむけられている好奇のあらわれのように感じられた。そんなことはないと否定する理性は、耳に飛び込んできた、鳩のしらせについてささやく声に消し飛んでしまった。心の準備が間にあわないうちに進行役に合図をされて、よけいに力んでしまったような気もする。いつものように胸の金鎖に服の上から触れて、呼吸がととのったと感じる間が短すぎたのかもしれない。声は無秩序に無防備なままでほうりだされ、その瞬間にフィアナはあっと顔から血のひく思いをした。
 神へと呼びかける一言は、いままでにフィアナの発したどんな声よりも不安定な波をつくり、聖堂に奇妙な余韻を残した。
 おそらく、そこにいたほとんどのものたちは、巫女のささいなしくじりには気づかなかっただろうと思う。その後、儀式は何事もなかったようにつづけられた。
 しかし、耳のいい何人かは即座にこちらを見あげ、射るようなまなざしで非難した。一瞬の出来事だったが、すでに動揺のただ中にあったフィアナのこころをえぐるには充分すぎる一瞥だった。
 そしてとどめに、祭司をつとめた神官のため息まじりのひややかな言葉。
「あなたがいつも睡眠を欲してらっしゃることは理解しているつもりですが、おつとめは最後まで心をこめてなさってほしいものだと思います」
 もはや巫女の矜持などどうでもいいのだろうと決めつけられたのが、悔しかった。
 ときに心を落ちつかせてくれる神々を描いた聖堂の壁画も、今朝はまったく助けにならなかった。壮大であるはずの画面はまるで閉ざされたようで生気が感じられず、くすんで陰鬱に沈みこんでいた。高みの神々は失望され、期待はずれの巫女にあたえられるのは憐れみのまなざしだけだとでもいうように。
 いったい、きょうの自分はどうしたというのだろう。
 目覚めがふだんと違ったという、それだけのことで、こんなにも調子は狂ってしまうものなのだろうか。
 意気消沈しているあるじに、出かける前に女官長に思わせぶりな言葉の意味を尋ねてみたらどうかと提案してくれたのはミアだったが、フィアナはそんなことを失敗のいいわけにしたいとは思わない。
 それに、あれほどまでにきっぱりと、シャンシーラを胸に焼きつけてこいと言われたのに、それをしないままで答を求めたら後悔するような気がしている。どうしてそう感じるのかは、わからないのだが。
 ぐるぐるととめどなく、フィアナの思考は堂々めぐりをくり返しながら混乱していた。
 こんなことではいけない。これからシャンシーラを見にいくというのに、滅入ったままはごめんだ。
 フィアナは意を決したようにすっくと立ちあがり、うん、と背伸びをした。かるく全身をほぐしたあとで咳払いをし、喉の調子を確かめる。
 神を呼ぶ言葉は正確に音にしなければ意味がない。ほんのわずかな狂いであっても、音が異なれば言葉は別の意味を持つ。いにしえの言葉は、多彩な音の織りなす繊細なひびきによってかたちづくられるものだった。
 いま、ここでその言葉を発することはできないけれど、なにが失敗の原因だったのかを突きとめるくらいはいいだろう。胸をおさえて金鎖の感触をさぐりながら、フィアナはまぶたを閉じて意識を集中する。
 ささやくようなちいさな声で、しかし喉はしっかりとふるわせて。音にならない空気の振動がからだの奥からさざ波のようにひろがっていくのを感じながら、なじみの旋律を口ずさみかけ、暗いまなうらの奥にあつまりよってくる光をとらえようとする。
 フィアナの精神は、そこに突如として生まれようとする虚空の予感にひるんだ。
 声を生みだす前にいつもおとずれる、一瞬の浮遊の感覚と少し似てはいるものの、それはひどく不安をさそい、しかしかつてどこかで体験したことがあると思わせる、奇妙な既視感をともなっていた。そこを通りすぎることで生まれるなにかを、自分は知っている、とフィアナは思う。それはまばゆいばかりに輝いてこちらへと手をさしのべ、招いている。吹雪のようにふりそそぐ、白いなにものかをまといながら。
「フィアナさま!」
 半開きにしてあった扉から、厨房から戻ってきた侍女が勢いよく駆け込んできて、フィアナの心臓は一瞬とまった。ミアの声は、まるで金床を打つ槌のひびきのようだった。うちこまれた一撃に、脳裏に生まれかけていた白くながれるような幻想が、あっというまに飛び散っていく。
 どきどきしながらふりかえると、ミアは満面に笑みを浮かべて蓋つきの手提げ籠を掲げあげていた。
「うけとって参りましたよ、お昼の籠。中身はあけてからのお楽しみだそうです」
「ミアったら……もうすこし、しずかに入ってこられないの」
 フィアナの文句は、当然のように無視される運命にあった。ミアがやってくるととたんにゆるがぬ現実にひき戻されるような気がする。
「この香りからすると、香辛料入りのパンかミートパイのような気がするんですけど、どう思われます?」
 ミアが大げさに籠をふりあげるのでフィアナはあわてた。そんなに乱暴にあつかったら、中身がごちゃごちゃになってしまう。飲み物を詰めてくれたものだろうか、瓶のぶつかる音がしているではないか。
 ミアはあるじの心配など意に介さなかった。もちろん、程度は心得ていると言いたいのだろう。そんなことより、とまた籠をあらっぽく下げると、すこし不満げに尋ねてくる。
「フィアナさまこそ、えらい人を連れてくるとおっしゃっていたはずですけど」
 ミアの言うえらい人とは、にわかごしらえの薬草採取人に薬草摘みのなんたるかを指南してくれるはずの、薬草園係の神官である。もとより薬草摘みは口実だったから、行き帰りに少しばかり一緒にいる姿を見せてくれればそれでよかったのだが、朝の祈祷の際に姿が見えなかったため、念を押す必要があると判断された。それで、厨房担当と薬草園担当にわかれて行動することにし、待ち合わせを裏門に近いこの部屋に定めたのだった。
 フィアナはばつが悪そうに顔にかかった髪をはらいのけながら、さきほど薬草園を訪ねた結果を報告した。
「ボーヴィル師ね。あいにくだけど、きのう畑おこし中に腰を痛めたとかで同行できないと言われたわ。代わりにこれをくれたけど」
 それは粗い織りの布でつくられた大きな袋だった。口がひろくて、肩にかけられるようにと太い紐が縫いつけられている。使い込まれたものらしく、もとは生成だったと想像される袋はいまでは草染みのために半ば以上が緑褐色に変化していた。ボーヴィル師のご愛用の品らしい。
「これに摘んだ薬草を入れてこいってことですか」
「そのようね」
「いっておきますけど、どれが薬草かそうでないかなんてこと、私にはまるきりわかりませんからね」
「だいじょうぶよ、私がいるじゃない。これでも薬草摘みに関しては、すこしは経験があるんだから」
 そうなのだ。神殿生活における雑用に関しては、フィアナはけっこういろいろな経験を積んでいる。
 胸を張ってみせたあとで虚しくなっているフィアナに、ミアはふうんと信じていないようにうなずいた。新米なので、六の巫女がどれほど祭事に関しては無能であるか、その埋め合わせとしてどれだけの雑事をえんえんとこなしてきたかが、まだわかっていないようだった。だから無邪気な子どものように、いにしえの巫女のいいつたえをそのままフィアナに当てはめようとするのだろう。しかし、今回それとはべつに、侍女の頭にはもうひとつの懸念が浮かんでいたらしい。
「摘むのはいいんですけど、私たちだけで出かけてもいいんでしょうか」
 少女ふたりの野歩きに女官長がすんなりと許可を出すとは思えない。だからふたりは神官をえらい人、つまり監督責任者として押し立てたのだ。もともと春は薬草の豊富な時期ではない。ボーヴィル師が同行できないと女官長に報告したら、まちがいなく野歩きは中止させられることだろう。
「そんなこと」
 フィアナは言葉に詰まったが、それも一瞬だった。
 いいや、今日はシャンシーラを見に行くのだ。なんとしても。絶対に。もしかしたら、来年は見ることが叶わないかもしれない、これが最後のシャンシーラになるかもしれないのだから。まるで今にもエリディルを去らねばならないような焦燥感に突然襲われたフィアナは、その感情がどこからやってきたのかということまでは考えようとはしなかった。
「こっそり出ていけば、わからないわよ」
 いつになく力づよく断言する巫女に、侍女は感心したように両手をあわせた。
「そうですよね。こっそり出ていって、こっそり戻ってくればわかりませんよね」
 うんうんとうなずきながら、思い出したようにあたりを見まわした。他人に見られていないことを確かめるそのしぐさは、すでにいたずらをすることを決意した悪ガキのものである。
「それならば、誰にも見られないうちにさっさと出かけましょうよ……あら?」
 よからぬ相談をしめくくろうとするように最後にとりわけ力づよく、うん、とうなずいてみせたミアだったが、窓のむこうの馬の姿に気づいたとたん、あっというまに心を持って行かれてしまった。
 窓に両手をついて身を乗りださんばかりの勢いで、はやく出かけようとうながしても、まったく耳に入らない。
 視線の先には、あの馬丁と葦毛二頭が、光にふちどられたそのままの姿でまだ立ちつくしていた。
「いつ見ても姿のいい馬ですよねえ」
 ふもとの村には馬の繁殖を生業としているものが多い。そのせいか、村出身のものはみな馬のこととなると眼の色を変える。ミアも、フィアナの前でことあるごとに馬への興味を表明してきた。あるじは馬のことはさっぱりわからないのだが、そんなことは関係ないらしい。
「あら、尻尾の編み方を変えたんだわ。ふうん……ああいうのもいいかもしれない。今度試してみようかしら」
 馬とおなじ髪型にされるのかとすこし不安になりながら、フィアナもしかたなくもう一度馬を眺めてみる。たしかに、毛並みがつやつやとしていて光沢があるし、たたずまいもすっきりとしている。ミアがつねづね言いはるように、褐色の眼には愛嬌があるのかもしれない。しかし、この距離でそんなことまで見てとるのは不可能だ。それに、この馬は到着そうそうフィアナの髪をむしってくれた過去があるのだ。あまり近寄りたくない、とフィアナは思っている。
 そのうち馬丁がなにかを認めてやれやれときびすを返し、馬の耳がくるっとうごいた。
 馬丁の視線の先をたどると、老若数人の女性たちが足下に黒い影を落としながら一団となって近づいてくるところだった。みないちようにお仕着せの暗い色あいをした女官服を身にまとい、濃い色の髪をまとめあげている。押し寄せてきたざわめきから逃げだすように、鳩は背を向けてはばたき、飛び立っていった。
 フィアナの視線は、その後から少し遅れるようにして現れた少女の姿にすいよせられた。
「クレアデールさまだわ。いつ見てもお美しいですね。どちらにお出かけなんでしょう」
 ミアの素直な賞賛の言葉が聞こえるわけもないが、すらりとのびた肢体をぴったりとした乗馬用の服につつんだ少女は、年齢に似つかわしくない威厳に満ちた足どりでやってきた。まっすぐな黒髪を風になびかせ、額には金属でできた細い環が締められているのが見える。中央に嵌めこまれた貴石がふりそそぐ陽光を反射してきらめいた。それが三の巫女の保持する宝玉だった。
 少女は、先に足を止めてあきらかに彼女を待ち受けていた女官たちを一顧だにせず通りすぎると、葦毛の前でようやく立ち止まった。
 鼻面を寄せてくる愛馬に応える少女に、いつのまにやってきたものか、深緑のマントで騎士らしい厚みのある身体をつつんだ男がうやうやしげに話しかける。
「ビリング卿……!」
 ミアの声が嬉しげに黄色く変化しそうになったため、フィアナはあわてて袖をひっぱった。
 三の巫女クレアデールとその後見人ビリング卿のやりとりを盗み見る行為が、作法上も道徳上も誉められたものでないことはあきらかである。こんなところをみつかったら弁明のしようがない。
 フィアナの知るかぎり、かの男性はいつも心に苦悩をかかえているような顔をしている。癖のある黒髪を額に垂らしたまま、かれはものうげに少女が鞍上にまたがる手助けをしようと申し出たようだ。ところが、少女は差しのべられた手を完璧に無視した。ほっそりとした手で馬丁からじかに手綱を受け取ると、次の瞬間にはかるがると馬上の人となっていた。
 苦悩の表情の男は、しかしさらに口元の皺を深めたりはせず、ということは少女の仕打ちをとくに気にしたようすもなく、淡々とそのようすを見守った。そのあとで馬丁からもう一頭の手綱をむしり取ってはいたが。
 そのあいだに、少女は馬の腹を蹴ると、さっさと中庭から出ていってしまった。あわてて後を追う、男と一頭。かろやかな蹄の音がかさなりながら遠ざかってゆく。女官たちはしずかに頭を下げたまま、ふたりの出発を見送りつづけたのち、おもむろに姿勢を戻すとふたたびさざめきながら来た道を戻っていった。
 しばしの沈黙の後、ふたりの少女は視線をもどして顔を見あわせた。
「……いきましょうか」
 おもむろに声をかけると、侍女はかすかにうるんだような瞳を宙にさまよわせてため息をつきながらうなずいた。
 その胸の中では、三の巫女とビリング卿のあることないことおりまぜたロマンスが創りあげられつつあるのだろう。
「クレアデールさまは裏門をお通りになったと思います?」
 神殿の正門は神のための門である。ふだんは閉ざされており、人の通過は許されていない。警備隊が主に使用している警備門は、人通りが多くて煩雑だ。だから、私用の外出時には裏門を利用する可能性が高いといえたが、
「いっておきますけど、私たちはこれから薬草摘みに行くのよ。馬には追いつけっこないんだから」
 腕を組んで釘をさすフィアナに、ミアは満面の笑みで答えた。
「わかっておりますってば。はやく行って、さっさと草でも花でも摘んで、シャンシーラを見ながらお昼をあがりましょうよ。〈見晴らしの壁〉からなら、街道も見通せます!」
 フィアナはため息をついた。
 ミアの守護騎士幻想の源は、ひょっとすると、もしかしたら、いや、たぶんビリング卿なのに違いない。
 石畳の上には、いつのまにか、鳩たちが舞いもどってきていた。



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